東京工芸大学・工学部・基礎教育研究センター化学系                                                              更新: 2015年12月22日



  ※ 本研究室の研究内容を紹介します。

研究テーマ

本研究室では黒鉛層間化合物(Graphite Intercalation Compound; GIC)に関する研究を中心に行なっています。
現在取り組んでいる主な研究テーマは次の通りです。

  1. 大気安定な高導電性黒鉛層間化合物の創製
  2. 炭素材料を用いた熱電素子の開発
  3. 超伝導性Ca-GICのキャラクタリゼーション
  4. 新規機能性黒鉛層間化合物の合成
  5. etc.
  
 ※ 黒鉛層間化合物(GIC)について知りたい方は ---> GIC 入門 
 ※ 発表論文を読みたい方は ---> 論文(リンク付) 


大気安定な高導電性GICの創製

 大気下で安定なGICの創製、および、その電気伝導性のさらなる向上を狙っています。
 一般に、GICは大気下で不安定です。挿入するインターカレート物質やホストとなる黒鉛の種類によって安定性は異なりますが、合成したGICを大気下に取出すと分解してしまいます(図1)。歴史的には、五フッ化ヒ素(AsF5)や五フッ化アンチモン(SbF5)を高品質の黒鉛にインターカレートさせたGICが金属の銀や銅を上回る電気伝導率を示したということで注目されました。黒鉛を母材とするGICは軽量なので、GICは“樹脂のように軽く、金属のように電気伝導性の高い”魅力的な材料ですが、大気下で不安定であるため、高導電性材料としての実用化には至っていません。

 図1 GICの分解(イメージ)

 大気下で安定なGICの研究は多数行なわれ、CuCl2-GICやMoCl5-GICなど金属塩化物をインターカレートしたGICや、Br2-GICから臭素が脱離した後に形成する臭素残存化合物の大気安定性が有名です。 しかし、これらはどれもp型(ホール伝導)であり、また、電気伝導性もそれほど高くはありません。

 我々は、大気下で安定な「高」導電性GICの創製を目指してきました。その中で、ステージ2構造のCs-GIC(組成はCsC24)の層間にエチレン(C2H4)を吸収させたCs-エチレン‐三元系GICが大気下で非常に安定であることを見出しました。これは層間に吸収されたエチレンが層間内でCs原子を取り囲むように重合し、Cs原子を層間内に固定するため、分解が生じないということが分かっています。

   図2 CsC24のエチレン吸収とエチレン重合

 また、ポリイミドフィルムを熱分解して製造される黒鉛フィルム(PGSグラファイトシート;パナソニック社製)をホストに用いると、大気下で安定なGICが形成することも見出しました。 例えば、カリウムをインターカレートしたステージ1構造のK-GIC(KC8)は大気下でとても不安定で、大気下ではKが層間から脱離し、酸化され、分解してしまいます。粒子径の小さな粉末黒鉛をホストとして合成したK-GICを大気下に出すと、淡い炎を上げて燃えてしまいます。しかし、PGSグラファイトシートをホストとして合成したK-GICの分解は緩やかで、大気接触1ヶ月程度経っても、構造はステージ4〜5程度に変化しますが、電気伝導率は大気接触直後の値の8割程度を維持しています。もちろん、燃え上がることもありません。ちなみに、一般的なシート状黒鉛をホストとした場合、大気接触1週間程度で、電気伝導率は初期値の2割程度に低下します。

 我々の研究で最も安定なGICは、PGSグラファイトシートをホストとして合成したCs-エチレン-三元系GICです。これの安定性は驚異的で、大気接触10年経過後も、初期構造のステージ2を維持し、電気伝導率も初期値の9割を維持しています。また、ステージ2構造のCs-GICやK-GICは青色していますが、この「GICの色」は分解に敏感で、たとえ高い電気伝導率を維持していたとしても、さすがに青色は消えて、黒鉛の黒系の色になってしまいます。たとえば、エチレンを吸収していないCs-GICの電気伝導率は大気下で1年経過後も、ホストであるPGSの電気伝導率の10倍以上、初期値の8〜9割の値を維持していますが、表面の青色は消えています(写真1 左)。一方、大気接触10年経過後のCs-エチレン-GICは、やや薄く、斑でははあるものの、肉眼でも十分青色が確認できます(写真1 右)。

 写真1 PGSをホストとしたCs-GIC(左)とCs-エチレンGIC(右)

炭素材料を用いた熱電素子の開発

 GICや黒鉛など、炭素材料のみを用いた熱電素子の開発を試みています。
 熱電発電はゼーベック効果を利用した発電方法です。ゼーベック効果とは、2種類の導体を接合してつくった回路の接合点を異なる温度に置いたとき、接合点間に電位差(熱起電力)を生じて電流が流れる現象です(図3)。 熱電発電は廃熱を電気に変換することが可能であるため、エネルギーハーベスティングという観点から現在とても期待されている技術です。熱電発電に利用する熱電素子の基本形は図4に示すようなπ型素子で、発生する熱起電力を大きくするために、n型とp型の熱電材料を並列につないだ熱電対になります。実用的には、この熱電対を熱的に並列、電気的に直列に多数結合させた熱電モジュールとして使用されます。

    図3 ゼーベック効果

            図4 π型熱電素子(熱電対)

  熱電材料に求められる性能は、大きな熱起電力を得るための大きなゼーベック係数(S/μVK-1)、大きな電流を通すための高い電気伝導率(σ/Scm-1)、および、効率よく温度差を発生させるための低い熱伝導率(κ/Wm-1K-1)です。これらを総合的に評価するためには、(1)式の性能指数(Z/K-1)や(2)式の出力因子(P/Wm-1K-2)が用いられます。

       ・・・ (1)
        ・・・ (2)

 黒鉛がGICになると、ゼーベック係数と電気伝導率が増加し、熱伝導率が低下するので、GICの熱電性能は黒鉛に比べて大幅に向上します(図5)。また、GICはn型もp型も調製可能なので、GICや黒鉛のみで熱電素子を組み立てることが可能なのです。 GICを熱電材料として用いるメリットは、
   [1]軽量である
   [2]環境に優しい
   [3]GICは板状、フィルム状、粉末、繊維状といろいろな形状を取り得るので、熱電モジュールの設計自由度が高い
などが考えられます。

 図5 GIC形成と熱電性能

 現状では、GICの性能指数(Z)は他の熱電材料に比べてとても低いです。なぜならば、GICのゼーベック係数は他に比べて小さく、熱伝導率が高いからです。その一方、GICの電気伝導率は他に比べて高いので、出力因子(P)は実用される熱電材料と同程度の値に達します。

超伝導Ca-GICのキャラクタリゼーション

 CaをインターカレーションさせたCa-GICの特性を調べています。
 Caの黒鉛層間へのインターカレーションは古くから知られていましたが、気相法による合成が難しく、ステージ1構造の組成がCaC6であること、繰り返し距離Icが4.6Åであるなど構造は調べられましたが、特性を調べるまでには至っていませんでした。 それが、2005年にCaC6の超伝導性が確認され、さらに、その超伝導転移温度が11.5Kであることが判明しました。これまで知られていたK-GICなどの転移温度は1K以下でしたので、このCaC6の高い転移温度はGIC界にとってはとても驚きのニュースでした。さらに、同時期に、CaC6を簡便に合成できるLi-Ca溶融合金法が発表されたこともあり、CaC6の研究が広く行われました。
 しかし、これらの研究は超伝導性に注目しているので、CaC6の他の特性はあまり調べられていません。また、これらの研究では、HOPG(高配向性熱分解黒鉛)の小片を用いてCaC6を合成していますが、GICの特性はホストとなる黒鉛の性質に大きく依存します。そこで、我々はCaC6をHOPGだけではなく、汎用的な黒鉛シートであるGRAFOILやPGSを用いて、比較的大きな片で合成し、超伝導転移温度だけではなく、室温付近の電気および熱伝導率、ゼーベック係数を測定しました。
 
つづく

新規な機能性GICの合成



 ・・・準備中・・・




その他



 ・・・準備中・・・



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