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卒アル贈ることば2023
ご卒業、おめでとうございます!
肚(はら:腹ではなくて)とは、何だかみなさんご存じですか? 古くから、その呼び名はあるのだけれども、それが、どこにあって、どこをさすのか判然とせず。「はら」なのだから、多分、下腹部のどこか、なのだろうけれど、「ここです!」とはっきりと指さし確認することができないところ。なのに、人体の運用と深く関わる有益な何かとして、日本人は古くからこの「肚」を用いることを大事にしてきた民族といえます。稲作作業やお相撲さんの四股、あるいは能・狂言師の運足、正座動作に見られるような、腰をぐっと低く落とした姿勢を保つことで、鍛え上げられてきた日本人の身体。その中から生まれた日本の肚文化(正しくは腰肚文化)は、身体のみを強くするものではなく、心をも強靭なものに練り上げる助けとなりました。単に人体の解剖学的な器官・部分名称ではないこの「肚」は、「肚」=「腹(モノ)」×「心(コト)」という、モノとコトが生み出す一種の「力と胆力(精神力)」の作用であると言えます。「腹をくくる」、「腹を決める」、「腹に収める」、「腹づもり」など、実はこれはすべて「肚」の作用が言葉として、日常生活に表れたものといえます。そして、おもしろいのは、これらの表現が、すべて重要な判断を迫られたときに、人はどうそれに対処し・対峙し・向き合うべきかを、我々に教えてくれていることです。みなさんは、おなかの中の小腸の塊と脳の形がよく似ている、と思ったことはありませんか? それもそのはず。現代の派生医学において、腸の神経系の一部が腸から派生独立して脳を形成した、ということが分かっています。また、腸は、人体の中で唯一、脳の指示に従わずとも独立して機能することができる器官でもあります。現代人は、心身の司令塔的な役割の大きさは、脳(頭)>腸(肚)とすっかり思い込んでいるかもしれませんが、実は、同等:脳(頭)=腸(肚)か、それ以上:脳(頭)<腸(肚)に、腸が我々の心身のはたらきを左右しているということです。日本の肚文化では、現代医学がこのことを突き止めるはるか以前から、「まずは自分のおなかに相談してみな」ということを実践してきたのです。自分のおなかに相談もせず、自分と周囲の人の心身を疲労させているばかりの人のことを、昔の日本人は「頭でっかち」と小ばかにしたものです。どうぞみなさんには、横隔膜を下に落とし深い腹式呼吸のもと、腹を据え腰を落ちつけて行う仕事を通じて、「肚」の座った懐深い人生を送ってほしいと願っています。
また、お会いできることを楽しみしています。では、お元気で!
オヂサンブルーこと
新しい大学のリーダーズより
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