1.慣性力とは?

 乗ったエレベーターが上昇を始めると、乗っている人は床に押しつけられるような力を感じる。また、電車が急発進や急停車をすると、乗っている人は電車の加速度とは逆向きに力を受ける。このような場合の力は、観測者(乗っている人)の座標系(この場合、エレベーターや電車)が加速度運動をするために生じる見かけの力で、慣性力とよばれる。物体は慣性の法則により、その運動状態を維持しようとする性質があるが、慣性力とはそのような性質に起因する見かけの力である。

1.1 エレベーター

加速度αで上昇しているエレベーターの天井からバネで吊るされた質量mの物体の運動を、エレベーターの外からの見た場合について考えよう。吊るされた物体は、バネからの力と重力mとをうけている。従って、物体に作用する正味の力は−mで、物体の加速度はαである。そこで、運動方程式は
−m=mα
となる。これより、バネの張力は
=m+mα
となる。すなわち、エレベーターが加速度運動をすると物体にはmαの慣性力がはたらく。
 一方、観測者がエレベーター内にいる場合、観測者は自分が加速度運動をしていることはわからないので、観測者には物体がmαだけ重くなったように感じる。
 このように、同じ現象でも観測者の座標系が異なると、その現象の解釈は異なってくるが、その正否は区別できない。これを等価原理という。


1.2 電車

 電車の天井から質量mの物体が糸で吊るされていて、電車が加速度αで動き出す場合を考える。電車が動き出すと物体を吊るした糸は、物体がうける慣性力により後方に傾く。このとき、物体には鉛直下向きに重力mと水平方向に慣性力mα、そして糸の張力Tとがはたらいる。そして、これらの力はつり合っている。従って、糸の鉛直方向からの傾きをθとすると、水平方向のつり合いから、
sinθ=mα また、鉛直方向のつり合いから
cosθ=m
となる。よって、糸の傾きはtanθ=α/となる。



1.3 遠心力

 車に乗って急ハンドルを切ると、車に乗っている人はカーブの外側の向きに力を感じる。これは、乗っている人は急ハンドルに関係無く直進方向に運動しようとするが、車がカーブするので、相対的に上体は逆側に傾く。このときに感じる見かけの力が遠心力である。円運動をしている物体は常に中心向かう向心力をうけているが、円運動をしている物体の座標系では向心力とは逆向きの法線方向に遠心力をうける。

1.4 コリオリの力

 回転している座標系から直進運動をしている物体を見ると、その軌跡は曲線に見える。従って、直進運動している物体には慣性の法則より、力は作用していないにもかかわらず、回転している座標系から見ると、あたかも力が作用しているように見える。この場合の見かけの力をコリオリの力という。地球の北半球で台風が左回りの渦になるのは地球の自転によるコリオリの力のためである。また、地球上で振り子を揺らすと、コリオリの力により、振り子の振動面が回転する。これをフーコーの振り子というが、これは逆に、地球の自転を証明するための装置である。



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